最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品

12/21/2007

メがテン…


…と、今さら古くさすぎるかつての流行語で恐縮だが、しかし唖然というか、理解不能というか、「なんでこうなるの?」と言う以外にどう形容したらいいんだろう? 薬害肝炎問題の国側の対応のことである。元々、原告側が期日としていたのは昨日(というか一昨日)で、舛添厚生労働大臣がなんとか首相を説得するから一晩だけ待ってくれ、と言って一日延びたはずだ。なんでもその時、舛添氏は「職を賭してでも」と口走ったそうな。で、職を賭して官邸に乗り込んだはずの舛添氏は目立たぬように裏口から退散したそうだが、それにしてもさすがにここまでひどいとは、想定の範囲を超えています。

どうせ福田内閣が官僚の言いなりになってる限り一律なんてあり得ないし、国の責任の範囲を広くするのだって難しい、というのは分かっていていいはずだと言われればその通り。だいたい原爆症でも水俣病でも、救済範囲を非常識なまでに狭めるのは我が国の冷たい政府の厚生行政では定番なわけだが、でもだからこそ、ならなぜ延々と引き延ばしたのか、というのがまったく意味不明だ。

で、「職を賭した」はずが発表されたのが、元から原告団が拒絶していた、国の責任を認めない範囲の被害者に補償するための「基金」とやらへの出資を30億に増やすからこれをみなさんで山分けしなさいって…。はっきり言って、失礼で人を馬鹿にしているとしか思えない。よほど傲慢な人種なのか、それともこれが他人を愚弄した失礼な言い草だと気づかないほどアホなのか…。元々原告がお金の問題で訴えてるわけじゃなく、目的が薬害の責任追及と根絶だからこそ「全被害者一律」、言い換えれば国が全面的に責任を認めることを要求して来たのはあまりに自明だ。それを意味不明の金を積む金額を増やしてって、どういう神経でそれを「事実上の全員救済」と言っていまさら原告や国民に対して提示できるのか? 

だいたい、出来ないのならなぜ「職を賭す」なんて大見得を切ったのか? 今週の「週刊文春」の見出しでは、舛添氏は「ヤルヤル詐欺」と呼ばれている。言い得て妙。

もっと理解不能なのが、政府側の今回の言い訳だ。大阪高裁の和解案からそう逸脱することは、法治国家として出来ない、司法の判断を尊重して、というのだ。あのぉ、そもそも大阪高裁が示したのは「和解案」であって「判決」ではなく、つまり司法の「判断」ではないですよ…。しかも一高等裁判所の和解案であって、まだ最高裁もあるし他の裁判所では異なった判断がいっぱい出ているんですよ。そんなことも分からない人が法治国家の政治を司ってるんですか? 法務省はなにを考えてるんだか。伊吹&町村元文部大臣コンビは、そんな小学校高学年で習うような常識について平然と嘘をついて恥ずかしくないのだろうか?

しかもその大阪高裁の和解案には、付帯意見、というよりそもそもの大前提として「本来なら全被害者一律が理想だが、被告側がまったく譲歩しようとしていない以上、和解としてはこれ以上はできない」と明記してあったはずだ。つい数日前のニュースなのだから、みんな憶えていないとおかしい。それを承知でいけしゃあしゃあと「大阪高裁の和解案」に責任転嫁している舛添の発言にも、さらには「法治国家」云々と原告側を侮辱しているとしか思えない町村、伊吹(しかしここまで倫理観の欠如した人間が、どっちも文部大臣経験者ってのはねぇ…)の発言にも、どこの報道もそもそも大阪高裁の和解案に明記されていたことに言及してのコメントをしないのは、なぜ? 彼らのふりかざしている論理が詭弁であり、まったくのデタラメの大嘘であるのは、一言でも元々の和解案のそのくだりに言及するだけであまりにも明白になるのに。マスコミのみなさんもバカではないはずだから、そのことに気づいているはずだ。なのになぜ言わないの? なにが怖いの? 誰に遠慮しているの? そりゃ当然、政府与党に遠慮しているのだろうが、そんな態度で彼らはマスコミの義務を果たしていると言えるのだろうか?

さらに厚生労働省のいいぶんがもっと凄い。これで責任を追及されたら、「薬事行政が成り立たなくなる」んだそうだ。おひおひ、政府が国として承認している薬に対して国として責任を負えないのなら、そもそも薬事行政も、薬の承認も、まったく意味がないということになっちまうじゃないか。自分らがどれだけアホなこと言っているのかにも、気がつかないのだろうか?

もっと凄い厚生労働省のいいぶんが、「薬に副作用はつきものだ」。命の危険がある副作用のある薬を安易に承認するだけでも「薬事行政ってなにもやってないじゃん」と言われても仕方がないことなのだが、それ以前に、薬害肝炎は「副作用」じゃありません。本来の薬効とまったく関係ない毒物が混入していたのを「副作用」って、どういう神経しているの? 非常識極まりない。

そもそもこの薬害肝炎の原因の大半を占める血液製剤の止血剤フィブリノゲンは、1977年にはアメリカで承認を取り消されて禁止されているのだそうだ。それ以前はまだ「分からなかった、しょうがない」かも知れないし、だから「一律救済」に対する妥協案として「1977年にアメリカで禁止されて以降」というのなら、まだ原告側も納得するかも知れない。そうなるとうちの近親者の場合は恐らく1969年か70年に感染したはずだから除外されてしまうだろうし、そもそもカルテが残ってないから告訴はできないのだが、でもまあ医学や科学に限界がある以上、それはしょうがないとまだ認めもしよう。だが他国ですでに危険性が認識されて禁止された薬物を20年以上放置して来たってのは、どう考えても恐るべき怠慢であり、国に責任があって当たり前だ。しかも、アメリカといえば、旧ミドリ十字がフィブリノゲンなどの血液製剤の材料となる血液の大部分の輸入先にして来たお国ですよ。そのアメリカで禁止されたんだから警戒して当然だろうに。

それにここで国がやるべきことは「救済」ではない。単に自分の責任の範疇の過誤について、遅ればせながら責任を認めることだ。なにを勘違いしてるんだか。肝炎というのがどれだけ辛い病気か、少しは想像してもらいたい。とにかく身体がだるくてなにもできなくなってしまうのだ。原告団があれだけ力強いのは、全身がだるいという状態は精神力で一日くらいならなんとか自分を奮い立たせられるからというだけで、本当ならほとんど寝たきりになってもおかしくないのを、精神力でもたせているんですよ、あれは。言い換えれば、それだけ怒ってる、そのパワーですよ。本人たちに会っていながら、そんなことにも気づかないんでしょうか、我が国の厚生労働大臣は。で、そんなに辛い思いをしなければならなかったのは、そもそも誰のせいなんだよ? それこそが問われているのだということに、まだ気がつかないんだろうか?

政府の責任を出来る限り矮小化しようとした結果出て来る、東京地裁判決の理屈となると、こういう非常識な判決を避けるためには裁判員制度もやむを得ない、とつい思ってしまう。政府が1987年に出した警告文書って、ウィルス感染の危険性などには一切触れず、ただ「必要がない限り極力使用は避けるように」と書かれているだけである。そんなこと市販の風邪薬の注意書きにだって書いてある、薬を使う上での常識。必要でもない薬の使用は極力避けるのなんて、当たり前です。なんでその時にさっさと承認を取り消さなかったのか、といえばその理由は血友病HIVスキャンダルの際にすでに明らかになっているので、みなさん思い出しましょう。ミドリ十字と厚生省が癒着していて、厚生省の役人が患者の安全よりもミドリ十字の利益を優先したからです。

それを金で済ませようなんて、だいたい下品すぎる。財務省は補償にお金がかかる、というので恐怖しているらしいが、金銭による補償よりもまず当時の責任者をきちんと追求し、場合によっては刑事告発も考えると宣言すること、補償金や和解金よりも、治療について国がある程度面倒を見ると同時に、国家プロジェクトとして肝炎の治療の研究に取り組むとか、もっと「政治決断」ならではのできるはずのことがあってもおかしくないのだが。この政治的想像力の欠如も、まったく呆れるしかない。

公明党が「また支持率が落ちる」と恐怖しているそうで、まだ伊吹とか町村に較べれば多少はマシ? 政治があまりに不誠実なのも問題だが、それ以上にバカであることはもっと大きな問題ですよね、どう考えても。あんなこと言ったら原告団が怒るに決まってるじゃん、という程度のことも、この人たちには分からないのだろうか?

12/12/2007

みなさまのNHK?

本日午後に、衆院の厚生労働委員会で、昨日の厚生労働省発表についての質疑が行われる…というか、行われているはずである。民主党の長妻議員が舛添大臣を問いつめる姿が期待されるわけだが、ところがNHKサマは今日は国会中継をやっていない。このテの生中継マニアとしてはとても寂しい。

民放や新聞報道では約1985万件は名寄せが困難で、そのうち975万件がほぼ見込みなし、と厚労相発表を伝え、見出し語には1985万、「消えた年金」5000万のほぼ4割という言い方を使っているのだが、これがNHKのニュースだと975万件のほぼ見込みなしぶんにのみの言及だ。少しでも政府の悪い印象を目減りさせようという涙ぐましい努力なわけだが(アホくさ)、嘘つき町村(…ていうか、この人の最近の日々の発言はそもそも日本語としておかしく、まったく筋が通っていない)が「7月から政府与党の方針は変わっていない」と会見で発言したことを、なんの論評もなしに報じている。そもそもその会見自体、ニュースとしての価値がまるでないでしょうに。無視すりゃいい、こんなもの。

もちろん『消えた年金』の件が政府与党にとって恐ろしく不利なのは誰が見ても分かることだ。方針が変わってないって、選挙の公約で「美しい国、日本」の前首相が「最後の一人まで」「自民党が責任を持って」と言ってたでしょうに。責任をとろうにもどうしようもない、「誰が大臣をやっても同じ」と舛添大臣が言っているが、一つ大きな違いがある。まともに知能があって誠意がある政治家なら、最初から名寄せ作業が極めて困難なのは分かってたはずで(だって誰が考えても「そりゃ無理だろう?」と思うはず)、だからあんないい加減なこと言いませんよ。「選挙だったから」って、あのねぇ…。今更になって「結婚で姓が変わった人は申し出て欲しい」と「国民の協力を求め」られたって、最初から言えって。

それにつけても「皆様のNHK」である。当然国会中継をやらなきゃいけない時間に、NHKサマは自局の番組PRのためにタッキーのトークをやっている。新年にタッキーが長谷川一夫の当り役『雪之丞変化』をNHKでリメイクするそうだが、今更なんで『雪之丞変化』? それくらいなら市川崑の傑作おフザケ映画版を放映せいって言うのは兎も角、とにかくアホとしか言いようがない。皆様の年金が消えちまうんだぜ。年金が頼りの高齢者はどうするんだ? 「わからないものはわからない」じゃ済まない問題を、国会で議論しているその時に。

そうでなくたって、だいたい「皆様の受信料」の「公共放送」がなにを考えて自分のところの宣伝を皆様の受信料を使ってやってるのか自体、すでに意味が分からない。そんなもん自分のところの宣伝費で賄えっていうの。で、そもそもその宣伝費だって『皆様の受信料』、NHKが自分のために使っていいお金ではなく、あくまで放送を通じて公共に貢献するためのお金である。

その上、この政府与党に不利なことはなるべく報道しないという姿勢である。「公共放送」ということを完璧に勘違いしているNHKに、受信料なんて払う義務があるんだろうか? 「自民党に金をもらえばいいじゃん」とでも言って督促を追い返してやろうか? 自民党はちゃんと政党交付金を得てるんだし、なんで我々の払ってる受信料で自民党の広報活動をやってるわけ? だいたい、それって放送法違反だろうが。

12/11/2007

何を今更ながら、今更なニュース

昨日と今日、厚生労働省所轄のハナシで腹が立つニュースが二つ、二日連続であったわけだが、その一はもちろん、「消えた年金」の名寄せ作業についての発表である。

もっとも、これが「ニュース」かどうかもちょっと怪しい。だってこういう結果になることは分かってたでしょう? 舛添大臣は「ここまでズサンとは予想外」と驚いた演技をしていたが、演技じゃないとしたらこの男、よほどの阿呆ということになる。どっちにしろ国民の健康と生命の安全に責任を負う大臣としては不適任でしょう、どう考えたって。だって考えても見て下さい。もともと入力ミスで5000万件も持ち主不明の年金があったわけで、ズサンなのは最初から分かってるでしょ? ミスである以上ランダムなわけで、たまたま厚生労働省のコンピューターによる照合プログラムにひっかかるかどうかなんて、関係あるわけないでしょう? たまたまそのプログラミングにひっかかるミスが予想より少なかったからって、それはズサンかどうかの問題ではなく(で、ズサンなのは最初から分かってるわけで)、現実とはそういうものだ、というだけの話。

厚生労働ダイジン閣下は、東京大学とかいう超エリート校出身で、おフランスに留学までしておきながら、これくらい基礎的な不確定性をめぐる哲学的命題すら理解できないだろうか? ミスである以上ランダムなわけで、そのミスが人間がとりあえず予測できる範疇の規則性から逸脱していたからって、それは社会保険庁がズサンだったかどうかとは別問題。膨大なミスがあった以上は当然そのミスの性質を完全に網羅的に把握なんてできるわけがなく、従ってコンピューターで照合しきれないものがいくらあろうが驚くべきことでもない。最初から無理なのは分かってたはずだ。で、最初から無理じゃないんですかと野党に追求されるたびに、「内閣総理大臣がお約束しているのだから」などと大見栄を切ったのはどこの誰でしょう? その時点で「こいつらバカじゃないの?」と、まともな国民はみんな気がついてますよ。

政治的に問題なのは、その程度のことも考える能力もなく公約として「来年三月まで」「今年度内」と強弁してしまった政治家の無能さだ。現に誰も信用しなかったから自民党は参議院選挙で惨敗したわけだが、あまり人をバカにして欲しくないものである。現実に無理なものは現実に無理なわけで、なんの保証もないうつろな熱意だけ強弁して時間を浪費しているヒマがあるなら、そもそも照合が完全には不可能であるという前提に立ってどういう解決法、つまりどうやったら払った人がちゃんと年金を受け取れるかどうかを、とっとと議論するべきだったはずだ。それこそが政治家の仕事というものだし、残ってる限りでも紙台帳をチェックするとか、とっととやるべきだったことはあるでしょう?

もうひとつ、より腹が立つのは、C型肝炎薬害問題だ。まず真っ先に、常識として指摘しておくべきなのは、C型肝炎は輸血や血液製剤で他人の血液内にいるウィルスが体内に入ってこない限り、感染するわけがないということ。麻薬の注射などの日本では極めて可能性が低いケース以外は、つまり圧倒的多数のC型肝炎感染者は、すべて医療ミスか薬害、あるいはその両方の被害者なのだ。

昨日『TVタックル』に出ていた厚生労働副大臣だかの自民党の見るからに頭の悪い若手がその程度の常識も分かってないとしか思えないアホなことを連発していたのではっきり言っておくが、日本の場合は、麻薬などの注射で感染するということはまずない。だいいちC型肝炎は圧倒的に女性患者、それも中流の、主婦を始め、母親/出産体験者が多い。出産や、流産のときの止血剤で感染したと考えるのが可能性としてはまずもっとも合理的であり、その止血剤に認可を出しているのは厚生省であり、その安全性に責任を持っていたはずなのは日本国なのである。

法的な責任の確定にはカルテなどの証拠が必要になるし、政府/製薬会社/医師が危険性を認識していたことが明確であったほうがよりはっきりする。でもそれって、裁判で法的に有罪になるかどうかで言えば、故意つまり危険性を認識しながらその薬を使ったのだったら、定義上は殺人罪になったっておかしくない話ですよ。致死性の毒物である可能性があるものを他人の体内に入れるって、それって普通の日本語では「毒殺」と言います。

で、政府がなんとか補償する人数を制限しようとして出している理屈、東京地裁判決というのは、要するに政府および厚生労働省を加害者の共犯とする殺人未遂の要件がほぼ疑問の余地なく成立するケースに限って、ということでしかない。今の一連の裁判などの闘争では話題にものぼってないが、輸血や血液製剤によるC型肝炎感染の危険性が認識される以前の感染だって、それ自体は医療行為が原因であり、つまり薬害であり医療ミスであることには変わりがないのだ。

もちろん医療の問題であり人間の科学的知識に限界がある以上、普通なら立派に「業務上過失傷害、ないし致死」が成立しうる「知らなかった」に関してまで確定的な法的責任は問わない方がいいだろう、そうでないと医学の進歩が大いに制約される可能性があるというわけだが、どっちにしろそれ以外に見逃すべき法的・政治的・倫理的理由なんて皆無だ。でもね、まだ血液製剤による感染リスクが認識されておらず、むしろ革命的な薬として重用されていた時代のことなので、法的な責任を問い始めると医学の進歩自体を止めてしまう危険があるとはいえ、「知らなかった」としてもそれなら知らなかったこと、つまり医師や医療従事者、医療を統括する役人として無能であったことに道義的責任くらいは感じてしかるべきだろう。そういうときのための政治解決じゃないの?

しかも、まったく同じことが十数年前には血友病患者のHIV感染として告発されているのである。その時点で、素人ならともかく、厚生省のお役人ぐらいは、高い給料をとっているプロなんだから、HIV感染が起っているのなら肝炎ウィルスに感染している可能性だってあることは、当然気がついておくべきことだったはずだ。少なくとも気がつかなかった自らの不明ぐらいはちゃんと自覚して欲しい。前総理が大好きだった「美しい国ニッポン」にひっかけていえば、正しい日本的な倫理観を遵守すれば、それだけで辞表を提出するのに十分な責任を感じるべき問題であり、武士道の倫理にのっとれば腹を切ってもおかしくない話だ。

それを投与された患者400余名の名簿があったのを隠蔽して「忘れて放置してました」とシラは切ってみせるわ、名簿が出て来ても今度はプライバシーを逆手にとった屁理屈で通知はしないわで、なにが許せないって、感染している可能性を通知すればそれなりの検査はうけ、重度の肝炎になる前にしかるべき治療を受けることだって出来たはずなのだ。厚生省(現厚生労働省)の仕事は国民の健康を守ることなのだから、非加熱の血液製剤が肝炎ウィルス感染の原因になっている可能性に気づいた時点で(ということは、遅くとも80年代には)、輸血や血液製剤の止血剤を使った可能性のある人はとりあえず検診を受けなさい、くらい呼びかけてしかるべきだったのだ。肝炎はインターフェロンの前だって治療を受ければ進行を遅くする事ぐらいは出来たし、今では肝硬変とかガンにまで進行していなければ、インターフェロンを使えば十分に直る病気なんだから。「なんで早く知らせなかったの?」 それだけでも厚生労働省には途方もない責任があることぐらい、少しは自覚してもらいたい。

まして認可を与えている薬なんだから…。まともな精神をもっていれば大阪地裁の和解案なんて待たずに、それなりの政治責任と、せめて謝るくらいのことは、ちゃんとやってしかるべきなんですが。そうでなくてなんのための政治ですか?

今回の一連の裁判で原告になっている人たちが訴えている時点で、科学的な知識としては非加熱製剤が危険だということは分かっていた。 「C型肝炎ウィルス」という病原体の特定はまだでも(当時はまだ非A非B型肝炎、と呼んでいた)、輸血や血液製剤投与で肝炎ウィルスに感染することは分かっていたし、その数年後にはインターフェロンの実用化が始まり、東京都などの自治体では治療について財政的援助もしていた。今訴えている感染者の人々は、そもそも厚生省がミドリ十字の接待癒着で怠けてなければ投薬自体されていなかった可能性が高い人だし、仮に感染しても「感染してるかも知れないから検査を受けて下さい」と言われていれば、そこまで苦しむこともなくインターフェロン治療を受けられ、うまく薬が効けば完治していたかもしれないのだ。それだけでも福田首相がとっとと「政治決断」を下すのは理の当然だと思う。

カネがかかる? ならまず厚生労働省の、少なくとも80年代半ば以降にすでに在職していた役人の給料は全部半額カットにして、それでも充当すればいいんじゃない? 少なくともインド洋に無料ガソリンスタンドを残すかどうかよりもよっぽどニッポン国民の生命の安全に関わる優先事項だと思うが。

蛇足だが、OECDの学力調査で、「日本の子どもは科学ができない」という衝撃の結果が文部科学省あたりを騒然とさせているらしい。いやでもねぇ…。ごく基礎的な科学的思考ができれば、C型肝炎ウィルスの感染がこと日本の、それも圧倒的に多い女性患者では、出産や、流産のときの止血剤で感染したと考えるのが可能性としてはまずもっとも合理的というのは、すぐに思いつくことですよ…。だって「肝炎ウィルスに感染」という事実についての感染経路を推測すれば、輸血ないし血液製剤というのが、中学生レベルにおいては当然の科学的な推論なんですから。

さらに蛇足だが、5000万件の持ち主不明年金について、照合できないものが4割あったからといって「そりゃ大変だ」とは思いつつも特段驚きもせず、「そりゃミスで入力されたものがそう簡単に特定できるわけがない」と思うもの、これまた当たり前の中学生レベルの科学的発想。その程度のことも気づかないで理科の成績が上がるわけがない。