最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品

11/19/2008

政権危機を報じたがらないマスコミと、この期に及んで給油法案の時代錯誤

政府が二次補正予算を今国会で提出しない限りは民主党がテロ特インド洋給油法案を採決しないと対決姿勢を見せているので、麻生氏は国会会期延長・60日ルールの参院みなし採決も辞さないと言い出している。それなら12月末まで、金融強化延長法案まで含めるなら越年国会も辞さないという話にならざるを得ないわけで、それでも二次補正予算を出さないのなら、その前に平成21年度予算の審議が始まっちゃうんじゃないかみたいな政治日程になり、もうわけが分からない。

政治部記者というのは分かっていても政府に都合のいいことを書く癖が抜けないらしく、先月末の二次補正予算・緊急経済対策記者会見でも政治部はあのめちゃくちゃな案をその時点ではある程度は評価し、一方経済部は「景気対策にならない」と酷評する記事が各紙で目立っていたが、今回もことの本質をあえて無視して民主党が国会の手続き論を反古にしたことばかり批判したがっている。一部のテレビに至っては「民主党に批判が相次ぐ」と言って批判しているのは政府与党の執行部ばかりじゃん(爆笑)。ニュース23のTBS社員でないメインキャスターの後藤氏と、あとは毎日の社説だけが「要するに麻生政権が不評の定額給付金などの審議で徹底的にやられるのを恐れているだけだ」とちゃんと問題の本質を指摘しているのだが、毎日だとやはり「社説」だけあって、 “公平を期して” 「民主党の態度もいただけない」 と書かなければならないのは、やはりそんなに政権与党のご機嫌が気になるのだろうか。

「テロ対策を政争の具にするのか」と日経読売は批判しているが、ちょっと待て。小沢民主党は最初から給油による対米隷属法案には去年からずっと反対している。今国会で反対を明確にすることで採決に応じて早期成立させる姿勢に出たのは、解散総選挙で政権交代という目標が大前提だからであって、民主党が勝って政権交代してしまえば、速やかにインド洋における給油活動は停止する方向で政策転換をすればいいから、表面上は早期解散を前提にとっとと否決することでいわば成立に “協力” した(ようにも見える)だけの話だ。永田町のシステムを熟知しているはずの政治記者たちがそんなことも理解できないはずはない。なのに気づかないふうを装ってまったく論理的に破綻した野党批判とは。

毎日新聞には先頃亡くなった筑紫哲也さんについてのこんな記事がでているが、そこで筑紫さんのこんな言葉が紹介されている

新聞もテレビ局も、会社員ジャーナリストの限界が、すごくありますね。以前、TBSの社長と酒飲んだ時、『なんでそんな大金を払って僕を雇っているの』って聞いたらこう言ってました。テレビ局は言論機関、公共性を果たさなくてはならない。きれいごとだけじゃなくて、力、すごみがないと、小さな企業、免許事業だから国にしたい放題やられる。だからあいくちがなくちゃならない。それを全部自前(の社員)でやると差し障りがあって、がんがん言われる。誰かにやってもらわないとならない--。『要するにおれは弾よけか』と言ったら『そんなもんですな』と。非社員にそういうことをやってくれる人が必要だと。で、僕の役割があるんですね


「あいくち」(「匕首」、吉田茂の孫には読めないんだろうが、短刀のこと)とはまた、筑紫さんのトシというか世代がよぉく分かる語彙の選択ですが(^^;)、その後を引き継いで、やはり非社員の後藤さんがバッサリと麻生政権の「無責任」と「進んでも地獄、退くのも地獄」の政権ドン詰まり状況を率直に指摘できるのも、「匕首」だからってことなんでしょうか。googleのニュース検索にはさっき毎日新聞の一時間前の記事として「自民党内から政権批判が相次ぐ」という見出しがでていたのだが、リンクをクリックしてもその記事はでて来なかった。掲載一時間で削除されたのかよ。

警視庁の警視が酔っぱらい運転で逮捕されて、つくづくいろいろ不祥事の起る政権だが、そういえば田母神前空幕長の文民統制違反と森元首相もからんだアパグループと自衛隊・田母神氏の癒着問題、それに統合幕僚学校に「歴史観・国家観」という授業を田母神氏がもうけて招いた講師のリストを防衛省が黒塗りにして名前を隠した問題も、すっかり報道されなくなってしまった。これはこれで極めて重要な、日本の民主主義と法治主義にかかわる重大問題なんだけど。もっとも、例の黒塗り氏名のリストは、所属大学等や肩書きは塗りつぶされてなかったので、だいたい誰が来たのかの推測はつくんですけどね。それにしてもなぜマスコミはこの問題を追及しないわけ? いつのまにか社会の話題は大学生の大麻汚染で、厚生省に所属する麻薬捜査官がいきなり熱心に大麻取り締まりを始めたのは、政治問題から話題をそらすためのパフォーマンスかと疑いたくもなる。

脱線するなら一応我が母校ってことになる早稲田大学で逮捕者がでている件の報道についてひとこと--早稲田のリベラルでやんちゃな校風からいってでこの手の問題に早稲田が無関係であるわけがなく…というのは今の早稲田大学には必ずしも当てはまらないのだが、この件での逮捕者の多くが「国際教養学部」の学生ということで、報道ではなぜかボカしているが、国際教養学部って昔は国際部と言って、僕も交換留学でアメリカの南カリフォルニア大に行かせてもらったのだが、この学部に所属の学生というのは、要するに留学生。外国人であることをボカすのには、大学の大麻汚染を実態以上に深刻に見せる情報操作じゃないかとも疑いたくもなる。多くの諸外国では大麻程度はテクニカルには非合法でもあまり取り締まってないから、外国から来た留学生がその感覚でいるってだけの部分も相当にあるんじゃないの?

そこも含めて、なんだか政治や政府の問題や、官僚や国家公務員のスキャンダルから世論の目をそらすパフォーマンスに見えてしょうがないんですよね。

それはともかく、麻生政権や外務省、防衛省はテロ特インド洋給油法案をオバマ大統領就任までに通すことに必死だ。その理由がケッサクなのだが、オバマ氏はイラクからの16ヶ月以内の撤退を公約にし、昨日紹介した60ミニッツのインタビューでもグアンタナモ捕虜収容所の閉鎖などを明言する一方で、選挙中からイラクから撤退してアフガニスタンの治安回復とアルカイダ解体、ビン・ラディンを捕える(あるいは殺す)ことに集中するべきだと主張している。だからオバマ政権に協力するためにアフガン駐留多国籍軍への給油を継続してアピールしたい、っていう話なのだが、それのどこが「国民生活を左右する重要法案」なのかさっぱり分からん。

確かにアフガニスタンに集中することはオバマ氏は明言し続けているし、アルカイダから米国を守ることも繰り返しているが、それが軍事的手段によってなのかどうかは、オバマ氏は「あらゆる手段のなかでもっとも現実的な」としか言っていないし、アフガンの現状を分析すれば、アメリカ国民はほとんど知らないだろうが、軍事作戦はまったく成功していない。アメリカ兵の戦死をこれ以上無駄に増やさないことをオバマ氏は公約しているし、民主党系だけでなく共和党系のシンクタンクでも「テロとの “戦争”」は無理があり過ぎる考え方だという指摘を発表していたりする。オバマ氏はこれからまだアメリカ国内世論を説得しなければならないにせよ、軍事よりは国際警察権の執行、安全保障よりは国際協調による治安の維持、内戦の政治解決という観点でアフガン問題を考える国際的な流れが出来つつあって、カルザイ政権でももう数ヶ月前からタリバン側と交渉に入っているというのに、ただ「オバマ政権のご機嫌取り」しか考えられないでなにが「外交・安全保障の麻生」なんなのだろう? 

ちょっと冷静に考えなさいよ。まだ具体的なアフガン政策はオバマ次期政権は発表していない(アフガンの治安回復とアルカイダ壊滅とビンラディン逮捕という抽象的目標を提示しているだけ)のに、ブッシュ政権が始めた「テロとの戦争」の枠内の「給油」が有効だとオバマ政権が判断するかも分からない。昨晩NHK「クロースアップ現代」でジョゼフ・ナイ氏(現ハーバード大教授、ということはオバマ氏の母校)のインタビューを久々に聞いたが、自民党政権が嫌っていたカーター、クリントン民主党政権の外交ブレーンであった同氏も、「テロとの戦争」という考えは維持できないしアメリカのメリットにもならないことを示唆してましたよ。

なんといっても悲惨なのは、日米関係が日米安保で喰っている日米双方の軍需産業のバックアップを受けた、アメリカでいえば共和党系の人脈で牛耳られている、というか食い物にんされている日本外交のお寒い現状では、民主党系にはあまりパイプがない上に新人オバマ氏に関してはまったくコネがなく、しかも未だに安保条約によって日本はアメリカの属国の地位を保証されているという発想から抜けられず、外務省も防衛官僚も要はアメリカのご機嫌取りしか発想がないという。ナイ教授は「日本とアメリカは単に友好国であるだけでなく同盟国。オバマ政権が中国を重視して日本を無視するなどというのはまったくの杞憂」と言い切ってましたが、「同盟国」って意味が分かってるのかね、麻生サンは。たぶん分かってないだろうなぁ…。決して「属国」という意味じゃないし、とくにオバマ氏の外交政策がブッシュ的な強権的な一国覇権主義とはまったく異なったものになることだけは、それは選挙公約や演説の内容、彼がどのようなブレーンを持っているかを把握している限り、そして現在のアメリカの置かれた国際的な立場を考えるかぎり、明らかなんだけどねぇ。

だいたい麻生さんも出席してたG20なんて、欧州と新興国からのアメリカ批判大会になってたじゃん。給油法案で必死に新政権のご機嫌をとらなきゃ、なんて態度に喜ぶような外交政策は、オバマ政権はとらないだろうし、だいたいとれるわけもないのは、冷静に考えれば分かりきった話なんだけど。日本が賛成できないことなら賛成できないとか、これは協力できないとか、きちんと筋を通して言うのもまた、同盟関係なら当然なんですよ。

CHANGEなんだってば、CHANGE! そのCHANGEを日米関係を日本にとっても独立国として有利に、出来ることならお互いにとって有益にするのが、日本政府が今やらなきゃいけないことだろうが。いまさら属国じゃないんだからさ(いややっぱり属国なのか?)。

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